正月らしい?

「全然正月らしくない。」元旦の朝、出勤してきたIさんだ。
「明菜が帰ってきて、テレビをとられたのよ。せっかく久しぶりに紅白を見てたのにさ。大晦日は紅白、行く年来る年って決まってるでしょ。」
明菜とはIさんの娘のことで、以前この店でバイトをしていた子だ。娘がやめたあと、母のIさんが入れ替わるようにして働くようになった。
「贅沢言い過ぎ。夜休めるだけいいじゃないですか。俺なんて30日から夜勤四連チャンですよ。で、娘が見てたのって、ダウンタウンでしょ、どうせ。」と俺。
「あたり。もう、バカみたいにがはがは笑ってさ。」
「娘ドSですもんね。浜田のファンに違いない。それにしてもあれ録画だそうですね。日テレももう少し考えなきゃ、あれじゃあ風情がないわ、せめて生にしてって感じ。でも実際のところ俺も休みだったら見てましたよ。ていうか出勤するまで見てたしw」
「娘ドSってなによw。まぁあなたの云うとおり、たしかに去年までよりはましなのよ。あたしコンビニのオーナーやってたでしょ。正月になるとアルバイトの学生連中がこぞって帰省するもんだから、あたしが夜中出なきゃいけなくなるの。酷い奴なんか、一月十日ぐらいまで帰ってこないのよ。もう殺してやろうかと思うわ。」
Iさんは某コンビニチェーン店のオーナーだったのだが、いろいろあってフランチャイズの権利を手放しこの店で働くようになった。
「そりゃ酷い。もしかして日勤も?」
「そう。夜中出て、昼間で寝て、昼からまた出て、また夕方ちょっと寝てまた夜。」
「うはっ。現代の奴隷労働とはよく言ったもんだ。」
「でしょ。もう殺す気かと。殺される前に殺してやる、なんて気分にもなるわよ。今はやめて清々してるわ。」


正月早々物騒ですねぇ、いいわよどうせ正月気分なんてありゃしないんだから、なんて話だったわけだが、Iさんの殺伐とした気分って分かる。酷い話だが俺なんてもう呪いまくりだったもの、31日〜1日の朝にかけての時間帯なんて特に。己自身に、そして社会にたいしての、鬱々と、いらいらと、悶々とした気持ちがひたひたとわいてきて。昨年一年分の、そして今年の分の呪いがこもった「あけましておめでとうございます」。