風俗産業

「どのデリヘル誌がいいの?」
バイトしてる店の側に、割と大きなホテルと風俗街があるからだろうか、最近こんなことをよく訊かれる。そしてこんなことを訊いてくるのはいかにも出張中のサラリーマンが多い。
”しらねぇよ””出張中になにやってんの”と内心では思うのだけれど、近頃はだいぶ風俗誌にも詳しくなってきたので適当に見繕って渡してやる。
不思議なのはこれも経費で落ちることだ。
お茶やお弁当と一緒に風俗誌を買って、領収書を請求してくる。内容は「飲食代で。」
もしかしてデリヘルの料金も経費で落ちたりするのかも。
まるで村上春樹のダンスダンスダンスの世界だ、などとちょっとした感慨にふけってみたりする。


ところでリーマンはデリヘルが好きだが、彼等が利用する風俗店勤務の女の子はホストが好きだ。ある晩、いかにも!って感じの女の子たちが店員の男の子にはなしかけている。なんて言われたのと訊いたら、「「店員さん、XXってホストに似てますね〜」って言われましたよ。」だそうだ。「そのホストって有名なの?」って訊いたら「有名ですよ。」だそうだ。”確かここに載っていたはず”とホスト雑誌に載ってる写真を見せてくれた。見せてくれた写真は”全日本ホストグランプリ”なるイベントの写真だ。かっこいいポーズをとって趣味や暮らしぶりを紹介してるホストたち。ホストは今やちょっとしたアイドルなんだ。


普通の会社に勤務するサラリーマンが出張先でホテルに泊まり、そのホテルにデリヘルで女を呼ぶ、そのデリヘル嬢は稼いだお金でホストを買う。そしてそのサラリーマンやデリヘル嬢に情報の載った雑誌を売り、食事を売る自分がいて、売った雑誌の中でのデリヘル嬢やホストはアイドルとしても消費され、欲望の形成に自ら貢献する。
相互のサービスのやりとりを中心とした経済、あるいは欲望の食物連鎖の中に自分もいる。